第1章 出会い
「…あのさ、ひとつ忠告しといてもいい?」
「は、はい」
「素直なのはすごくいい事だけど、男ってのは単純だからさー。簡単にぽんぽん誉め言葉使わないほうがいいぞ。特にこれから男所帯の中に入るわけだし」
「は、はい…ごめんなさい…」
「あ、ごめんごめん!そんなしょげないで、怒ったつもりは全然ないから!むしろ嬉しかったから!」
俯いた私の顔を慌てて覗き込んでくる菅原先輩。
その焦った感じが何だかおかしくて笑ってしまう。
「優しいですね、菅原先輩。」
「……っ//だ、だから…」
あ、また褒めてしまった。
気づいたときにはもう遅かったけれど仕方ない。
思ったことを、伝えたいことを言葉にしたらほめ言葉になっただけのことだ。
それって菅原先輩がそれだけ素敵な人ってことでしょう。
そう思ったけど、さすがにこれは言わないでおく。
「あーっ…もう…他のやつらに近づけたくなくなった!」
「えっ…」
「帰りはできるだけ俺が送ってく!部の買い出しも俺が付き合う。いいよな?」
「は…はい、私は…菅原先輩がいいなら」
私がそう答えれば、菅原先輩は今日1番の笑顔。
「よし!そしたらこの心配なほめ殺しマネージャーさんを最寄り駅まで送って行っちゃおうかな」
「ええ!そ、それはほんと申し訳ないですから謹んで辞退します…!」
焦ってそう言うと、ふわりと頭に優しい感触。
「俺が心配なんだよ。送らせて。」
ね、 菜月
そのとき、ごくごく自然に初めて下の名前で呼ばれた私はもうそれ以上断ることなんてできなくて。
菅原先輩は優しいけど、少し強引なところもあるんだなあと思い知るのだった。