第3章 合宿
「ちょっと、黒尾さ…」
「おい!」
黒尾さんに抗議しようとしたところで、体育館に怒声が響いた。
振り向かなくても分かる。
この声は影山くんだ…
ちょうど体育館前を通りかかったのか。
体育館にズカズカ入り込んできた影山くんは、私の腕を引っ張って強引に黒尾さんから引き剥がし、そのまま外に連れだそうとする。
影山くんに引きずられていく中、黒尾さんを振り返れば、とても楽しそうな笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
声には出さず、口の動きだけで「頑張れ」と言っているのが分かる。
む、無責任な…。
そのまま影山くんに引っ張られ続け、人気のない薄暗い廊下まで来たところで腕は離してもらえたけど、今度は壁際に追い詰められた。
そして、めり込んだんじゃないかと思うくらいの勢いで、私の顔の横の壁に手をついた。
「………。」
あまりの迫力に声も出なかった。
これは俗に言う壁ドンなのだろうけど、少女漫画のような甘さは微塵もなく、完全にケンカの時のそれだった。
しかも、相手が影山くんだから尚更である。
黒いオーラに鋭い視線、ドスのきいた声の三拍子揃っているのだから最強だ。
「か、影山くん、あの…」
この状態から早く逃れたかった私は、影山くんが手をついていない方の壁に身をよじろうとした。