第3章 合宿
ちょっと貸して。
そう言って私から携帯を奪い、一瞬画面に目を走らせたところですぐに返してきた。
「おら、行くぞ。」
「え、今ので道分かったんですか!?」
「いや普通だろ。」
思わぬところでありがたい人と遭遇したおかげで、無事に合宿所へと戻ることができそうだ。
安心する。
「俺は音駒高校3年の黒尾。そっちは?」
「烏野高校1年の水沢菜月です。」
「水沢か…お前面白いな。」
にやりと笑った黒尾さんは、いきなり私のことをお前呼ばわりしてくる。
人と距離を詰めるのが上手な人なのかもしれない。
特別、悪い気はしなかった。
合宿所に戻るまで、黒尾さんと色々話した。
初めて会った人とは思えないほど会話が弾んで、行きはあんなにも時間がかかった気がしたのに、帰りはあっという間だった。
練習場所である体育館の前まで来たところで二人で足を止めた。
「黒尾さん、連れて来てもらってありがとうございました!」
そうお礼を言うと、
「本当なら俺が連れて来てもらうつもりだったんだけどな。烏野のマネージャーさんは手がかかりますね。」
と、茶化してくる。
でも、そのふざけた感じが心地よかった。
思わず笑顔がこぼれる。
いい人だな、と肌で感じた。