第3章 合宿
何となく疲れが見えてくる合宿3日目の練習も、つつがなく終了した。
私はお風呂あがりに冷たいものが飲みたくなって、部屋に戻る前にロビーにある自販機を目指していた。
まだ廊下などの電気は点いているものの、ロビーの付近は先に電気が消えていたため、自販機の光が目に眩しい。
程なくして、その光に照らされる人影があることに気付いた。
「あ、影山くん…」
影山くんは、パックの牛乳を飲んでいた。
私の声に気付き、ストローをくわえた顔をこちらに向ける。
「菜月も何か飲みに来たのか。」
「うん、そうそう。お風呂出たら喉乾いちゃって。」
「…髪、まだ濡れてんじゃねえか。ちゃんと乾かせよ。」
そう言って、空いた方の手で私の首にかけていたタオルを髪にかけ、頭をがしがしとふいてくれた。
「わっ…」
「…あ、わりぃ。」
影山くんの手が頭から離れたのでタオルを取って彼の顔を確認すれば、照れたように私から視線を外していた。
「風邪、ひくと思ったから。」
「…ありがと!」
心配してくれたことが嬉しくて、笑顔でお礼を言う。
影山くんはそれには答えず、自販機の方に体を向けて、お前は何飲むんだよ、と聞いてきた。
「んー、影山くんと同じ牛乳にしよっかな?」
「牛乳好きなのか?」
「うん、好き。」
何故か私の返答に大げさな反応を見せる影山くん。
どうしたんだろう…?
「小さい頃から家では基本的に牛乳ばっかり飲んでるなあ。だからこっち来てから毎日お茶で何か変な感じ。」
「…その割には育たなかったな。」
影山くんは私を一瞥したあと、自販機にお金を入れて牛乳の下のボタンを押した。
そして出てきたそれを私に渡してくる。
「え、そんな影山くん!悪いよ!」
「いいから飲めよ。」
「あ、ありがとう…」
それ以上断るのも彼の好意を踏みにじるような気がしたので、素直に受け取っておく。