第3章 合宿
「もう消灯時間だぞ。灯り消えちまったんだから早く部屋戻れ。」
烏養さんはそう私に促す。
「あ、あの、それなんですけど…」
「ん?」
「灯り消えちゃって怖いんで…部屋までついてきてくれませんか?」
「何ガキみたいなこと言ってんだよ…」
烏養さんは少し呆れたようにそう言ったあとで、言葉を続けた。
「……嫌だ。」
「ええ!!そんな!」
「俺が部屋の前まで送ってったの誰かに見られてPTA問題に発展したらどうすんだよ!」
そう言われて、大げさな気もするけど確かにそういうこともあるのか…と気付く。
烏養さんの立場からしたら危ない橋は渡らないに限る。
私は諦めて、一人で戻ろうと覚悟を決める。
「すいません、変なこと頼んで。それじゃあまた明日…」
「あ、おい。ちょっと待てよ。」
烏養さんは私を呼び止め、その後向こうからやってくる人影に声をかけた。
「おーい、澤村ー!」
こちらもお風呂あがりらしい大地さんが、首にかけたタオルで髪を拭きながら、ちょうどロビーの前を通りかかるところだった。
「烏養さん、菜月。どうしたんですか。」
「水沢がよ、暗くて怖いから部屋に戻れないとか言うからお前が連れて帰ってやってくれ。」
「そうなのか、菜月。子供みたいなこと言うんだな。」
烏養さんの説明を聞いて、大地さんが笑う。
大地さんにまで子供っぽいと言われてしまった。
でも本当のことだから仕方ない。
「分かりました、行くぞ。」
「頼んだぞ、お前なら安心だ。明日もキツいからよく休んどけよ二人とも。」
「「はい。」」
私と大地さんは烏養さんに返事をし、部屋を目指した。
背中に、烏養さんが新しいタバコに火をつける気配を感じながら。