第3章 合宿
その瞬間、力強い腕に引き寄せられた。
優しく抱きとめられる。
辺りには、影山くんが私を守るために放り出したダンボールから飛び出たにんじんやらじゃがいもやらが散乱している。
「あぶねーな…」
「ごめん、私が離したから…」
「…ケガしてないなら、別にいい。ほら、拾うぞ。」
あれ、怒らないんだ…
結局影山くんは、散らばった食材を拾って調理室に運ぶところまで付き合ってくれた。
すごく助かったけど、かえって仕事を増やしてしまったようで何だか申し訳なく思った。
しょぼくれているのが伝わったのか、調理室から食堂へ向かう道すがら、影山くんが声をかけてくる。
「気にしてんのか。」
「う、うん…。」
素直に頷けば、影山くんは咳払いを一つして口を開く。
「俺が…」
「?」
「俺がお前のこと放っておけねえだけだから、気にすんな。」
こちらには視線をよこさず、前を見据えたまま。
ねえ、そんなこと言われたら余計気になっちゃうよ。
影山くんの横顔に、私は心の中でそう呟く。
その後、影山くんとは特に何も言葉を交わすことはなく、今更別れて食べるのもおかしな感じがしたので、隣同士で食事した。
相変わらず、私にとって影山くんとの沈黙は居心地がとても良いものだった。