第1章 入れ替わるメイドの事情
「要さん・・・?」
キッチンにひょこっと顔をのぞかせる
鍋がコトコト・・・と美味しそうな音をたてていた
「あれ?いないのかな?」
樹里奈は花束を後ろ手にもったまま入り口で背伸びする
「・・・・何してる?」
「ひゃあっ・・・」
気が付くと要が後ろに立っていた
「あ、あの源さんが花束作ってくれたんですけど・・・ランチの時に飾れないかな?と思いまして・・・」
「・・・なんでそんなとこに突っ立てたんだ?」
「だって・・・キッチンに持ち込んだら衛生的によくないかも・・・って思って」
「・・・・」
「え・・・えっと・・・」
「ここに置くならいい」
要が手前のテーブルを指さす
「あの・・・」
「今日のランチはビーフシチューだから花を飾ってもおかしくない」
そういって要は花瓶を二本持ってきた
「えっと?」
「おまえいけられるか?」
「・・・・えー・・・と・・・」
「無理なのか?」
「はい、無理です」
要は樹里奈から花束を受け取ると、二つの花瓶にバランスよく活けていく。
「わっ・・・すごいっ」
「別に、これくらい普通だろ」
「なんかすいません」
「ふっ・・・別に謝ることないだろ」
要はポンポンッと樹里奈の頭を撫でると鍋の元へ向かう
「あ、あの庵くんのデザート食べないんですか?」
「ああ、俺はランチの準備があるから」
「じゃあこっちに持ってきましょうか?」
「・・・・・」
「えっと、その、庵くん、要さんの分も準備してたから」
「任せる」
「へ?」
「この鍋、焦げないようにかき混ぜといて」
「あ、はい。わかりました」
樹里奈は木べらを受け取ると鍋をゆっくりとかき混ぜる
要はそれを確認すると庵の元へと向かっていった。
「どれ?」
「は?何が?」
「俺の分」
「あ、ああ、これだけど・・・あれ樹里奈そっちに行かなかった?」
「来た」
「樹里奈は?」
「鍋かき混ぜてる」
「は?」
「あら、要くんが人に料理任せるなんて・・・」
「嵐でも来るんじゃねぇか?」
「別に、かき混ぜてるだけだ」