第17章 僕は辛いですか
ぽつりと雪が本音を漏らして数分後、
十四松が口をあけた。
十「……僕、そんなに頼りないかな」
雪「え?」
やっと出てきた言葉は傷心が滲み出ている。
十「さっきのカフェ、川沿い、家、僕の隣」
雪「……?」
十「ねえ雪ちゃん、本当の雪ちゃんは見せれないの?」
雪「っ……そんなことないよ」
十「そっか、でもね」
十四松は寂しそうに、川と夕日の煌めきを見つめた
十「本当の雪ちゃんがわからない」
雪「え……?」
十「初めて会った時の怯えた顔、打ち解けた後の強気な顔」
雪「じゅ、しまつ?」
彼は私の声なんか聞いてなさそうだった
ただたださらさらと言葉が流れていく
十「裸を見られても平気そうにする顔、真っ赤になる顔」
雪「!?!?」
十「襲われた時目の色が真っ黒になった怖い顔、甘い顔、楽しげな顔、諦めたような顔、師匠のことを語る時の嬉しそうな顔、
本当は辛くても……無理やり作る笑い顔」
言葉はグサリと私の心を突き刺した
雪「も、もう冗談キツイよ、十四松……」
十四松はそれでもやめない。
それどころか顔はどんどん険しくなっていって
十四松らしくなくなっていく
十「__最果てに行ったあの子も同じ事してた」
雪「!」
雪は十四松の言葉をもう聞きたくなさそうに少し仰け反る
十四松はそれまでずっとみなかった雪の顔をやっとみた
十「ねえ雪ちゃん、僕は、僕らは……雪ちゃんを辛くしてる?」
雪「っ……そんなわけ__」
十「僕は好きだったけど、これも全部雪ちゃんを苦しめてた?」
雪「十四松……違う……」
否定を言葉に出すけれど絶対そうとは言えなかった
確かに私は戸惑っているし、今の状況が世間的に普通だとはいえない。
正直、みんなの思いは……でも
雪「『違う……違うから』」
十「演技しなきゃいけないほど、辛い?」
雪「『信じて』」
大根役者ほどにしか役立たなくなった演技をする
暫く見つめあい、長く感じた数秒後。
彼は険しい顔をすっと戻し、優しい顔に戻った
雪「!、十四松……」
十「ごめん、怖かったよね?……もう帰ろ」
雪「……うん」
十四松は雪の手を優しく握り引っ張った
それから最後まで
彼が何も話さなかったこと、
顔を合わせなかったこと、
それでも決して手を離さなかったこと、
……駄々をこねなかったこと。
彼の背中を見つめながら思った