第2章 家
つれられてやって来た家は、一般的な家よりも大きかった。
そんな事は、ずっと黒い部屋にいた怜には分かる事ではなかったが、少年は怜の手を握ったまま、ずんずんと家に入っていく。
怜「ちょ、ちょっと!」
「これで拭け。服はこっち。」
バフッと投げられたのはバスタオル。渡された服は男の子用の服だった。
怜「・・・!」
「家ないなら、ここにいればいい。・・・ろくでもないけど。」
そんな事を言って、少年もタオルで自身を拭き始める。
怜は慌ててタオルでふいて、着替えた。
ここで待ってろ、と言われ、大人しく待っている怜。
部屋の中をぐるりと見てみると、特に変わった様子のない部屋。
けれど、真っ黒じゃない部屋。怜には新鮮だった。
部屋に少年が戻って来ると、少年は怜の隣に座り込んだ。
「・・・猿比古。」
怜「・・・え?」
「名前。伏見、猿比古。」
怜「・・・怜。」
猿比古「・・苗字は?」
怜「・・・なくしちゃった。」
猿比古「・・・そうかよ。」
それ以上は何も聞いてこなかった猿比古。
怜「・・・伏見君、は、どうして・・。」
猿比古「・・・放ってたら、死んでただろ。」
そう言われて、思わず猿比古の顔を見る怜。
猿比古「・・・なんか、放っておけなかった。」
そう言いながらふいっと顔を背けた猿比古。
怜は、ポロポロと涙を零した。
それに気付いた猿比古はギョッとした。
怜「・・・あり、がと。見つけてくれて・・・。」
そう言ったきり、静かに泣いている怜。
猿比古は、何も言わずにただ怜の隣に座っていた。
それが、今の怜には心地が良かった。