第9章 子供
猿比古の上着を羽織っている怜。
ここにはもう、他に“生きている人間”は誰もいないだろう。
伏見は怜を抱き抱え、瓦礫の山を歩いてくる。
アンナ「・・・怜。」
怜「アンナ、ありがと。」
そう言うと、アンナは嬉しそうに笑った。
怜はと言うと、伏見に抱き着いたまま離れない。離れようとも思わないが、それ以上に離れたくない理由があった。
そう、怜は今伏見の隊服を上に羽織っているだけで、他は何も着ていないのだ。
アンナ「・・・吠舞羅、一緒に行く。」
伏見「・・・は?」
アンナ「怜、服ない。だから、貸す。」
そう言われて、嫌だとは断れない伏見。
何時までもこの寒い中、怜に隊服1枚でいさせるわけにはいかないからだ。
しかし、吠舞羅に行くのは少し戸惑われる。どう足掻いたところで自分は裏切り者なのだから。
かと言って、このままの格好で服屋に入るわけにもいかない。
渋々、伏見が折れた。
伏見「・・・わーったよ。」
カランカランッと開いた扉。
ここはBAR HOMRA。赤の王、周防尊率いる吠舞羅の拠点である。
草薙「いらっしゃい・・・て、アンナ!どこ行っとったんや!?」
アンナが帰ってきた事に気づいた草薙は、カウンターの奥から出てきた。他の者はいないらしい。
アンナ「ごめんなさい・・・。」
草薙「まぁ、無事やったからええわ。・・・伏見が見つけてくれたんか?」
立ち上がり、伏見を見る草薙。
そこで、草薙は気付く。伏見の抱き抱えているモノに。
草薙「・・・人形?・・いや、子供か?どないしたんやそんな別嬪さん。」
だから嫌だったのだ。と伏見は心の中で毒を吐く。
怜をアンナ以外の知り合いに見せる事は、伏見をモヤモヤした複雑な気持ちにさせた。