第7章 偶然
10年。
部屋の中で暮らした。
きっとひこは、お母さんたちと一緒で、私の事なんて忘れてしまったのだろう。
みんなの中から、私はいない存在になってしまったのだろう。
今日は七釜戸の病院へ連れていかれそうになったから、車から飛び降りた。
あんな変な人の所へ連れていかれるなんて真っ平ごめんだ。
外は暗くて、でも人で賑わっていた。
人が怖くなって、私は暗い方へと無意識に足を伸ばす。
怖い。
ふと気づけば、人混みとは程遠い裏路地にある建物の屋上。
空を見上げれば、満月が見えた。
怜「綺麗・・・。」
突如聞こえてきた男の悲鳴。
下を見れば、男達はある少年に攻撃をしているものの、少年はひらりとかわし攻撃を加えていた。
ぼんやりとその光景を見ていた時、月明かりがその道を照らした。
怜「・・・仁希・・?」
少年は、少女の記憶の中の仁希にあまりにも酷似していた。けれど、仁希はメガネをかけないし、10年が過ぎているのに若すぎる。それに、
仁希なわけない。だって、仁希は死んでしまった。
では、あの少年は誰か。
“血は行ってんだなぁ。”
あぁ、そうか。そうだったのか。
怜の口角が自然と上がる。
アレは、ひこだ。
私の大好きなひこだ。