第2章 忠告の意味
一瞬の静寂。
そして、
『あっははは!!!』
松野家が笑いに包まれた。
「……へ?」
「あーごめんね、カッコつけてるのしか知らなかったんだね、あはは!」
「カラ松兄さんはいつもこんな感じだよ?カッコつけてる不憫キャラってやつ?」
「兄さん寝てないの?!?!」
「不眠じゃなくて不憫だよ、十四松!」
首をかしげる。
普段のカラ松さんは押されると弱いのだろうか。ちょっと気弱な面もあるのだろうか。
「…こいつ、ちょっと殴れば黙るから」
一松さんがぼそっと教えてくれたが、その情報今後の私になにか得があるだろうか。……いやない。
「あー笑ったら疲れた!ほんと、最高だね!……あ。」
誰より笑い転げていたおそ松さんがやがてその笑いを収めた頃、その口を開けたまま固まった。
どうしたのだろうと見ていると、突然目が合う。
「お前、名前なんだっけ?」
『……あ。』
おそ松さん以外の声が見事に重なる。
そういえば名乗っていなかった。
だって、六つ子全員にお目にかかるとは思ってなかったし、あそこですぐに別れるつもりだったから。
そんな通りすがり程度の人に名乗るつもりなくて。
しかしここまで来てしまった。
彼らは興味津々といった表情で私を見つめている、あの一松さんでさえ部屋の隅からちらりと私に視線を送っているのだ。
名乗らないという選択肢はない。
「…です」
よろしくお願いします、と頭を下げる。
今見ている限り6人は少し賑やか過ぎるだけの楽しい人達で、拒絶する理由はあまりないけれど、イヤミさんの言葉がどうしても私に踏み込むことを許さなかった。
「ね〜、よろしく!」
「ちょ、いきなり呼び捨てですか?」
「え、カラ松ガールのほうがいいのお前?趣味悪っ」
「……名前でお願いします。出来ればその呼び方は今後ちょっと遠慮したいです」
「ぷぷっ、カラ松兄さん振られたね」
振るも何も口説かれてない。口説かれたのはおそ松さんに飲みに誘われたあれくらいで彼には何もされていない。
しかし彼の彼女でもないのでカラ松ガールはやめてほしい。
というかその呼び方されると物凄く恥ずかしい。
何だろう、"子羊ちゃん"とか"レディ"とか呼ばれるのと同じで、むず痒いのだ。