第7章 彼の本心
「一松がいいって言うなら探さないよ俺たち。ほんとにいいの?」
抗議しかけた弟さえも制しておそ松は尚も続ける。
その瞳は一松だけを見ていて。彼の言葉を待っているようで。
その顔を見た時、ふと思った。
彼はもしかしたら…
「わかった。じゃあ帰ろう」
一松は口を開かない。
その様子を見たおそ松はついにそう言って彼の元を去ろうとした。
「………あ、」
去ろうとするおそ松の前に現れた、一人の影。
服はどろやら何やらで汚れ、本人さえも髪が乱れて肌に汚れがついている。
それでも腕に大切に大切にニャンコを抱えて、顔に満面の笑みを浮かべて。
十四松が、そこにはいた。
おそ松やチョロ松、トド松、そしてもちろん私は驚いて声が出せない。
その姿を捉えた瞬間思わず立ち上がった一松も、十四松がニャンコを一松の前に連れてくると思わず顔を背けてしまう。
そうして背けた顔が、一瞬私と視線が交わる。
「っ……」
一松。私は心の中で名を呼んだ。
本当にそれでいいの?
一松、もう、向き合えるでしょう?
彼が息を呑む。苦しげに口元を引き結んだ。
………その時だった。
「ごめんね」
唐突な謝罪の言葉。
一瞬、誰が発したのか分からなくて私は思わず辺りを見渡した。
しかし当然ながら新たな介入者なんていない。
そして一松は何も言っていない。
何も言っていない彼に対して、ニャンコは本音を語ることは出来ない。
それなら、謝ったのは。
“ねぇ、ちゃん…俺、どうしよう?”
“自分が間違ってたと思うときに言う言葉なんて1つじゃない?”
いつも明るくて笑顔の彼がこぼした弱音。
自分が引き起こしてしまった今回の事件。そう思ってしまった彼が辿り着いた答え。
ぼろぼろになりながら、『友達』を探してきた彼…なのだろうか。
一松はじっとニャンコを見つめて、十四松にも視線を向ける。
逡巡するように揺れる瞳。
「俺も……ごめん」
やがて一松が零した言葉に、ニャンコはどこか嬉しそうに同じ言葉を返した。
それは一松の本音を言っただけなのだけれど。
私には友達同士の仲直りに見えたのだった。