第7章 彼の本心
「俺…謝れるかな」
その時、彼はまっすぐに私を見つめた。
思わず見つめ返してしまったけれど、彼は咎める素振りを見せない。
一松は問いかけていた。野菜ではなく、私に。
「……っ、」
だから、私も私として答えさせてもらった。
彼の拳に手を添えて、上から包み込む。驚いて手を引きかけた彼を引き止めて、繋ぎ止める。
「言えるよ。大丈夫。一松が、相手のことを大切に思ってるんだから」
私には、勇気を送って励ますくらいしか出来ないけど。
一松がどれだけニャンコのことを思っていたのかはよく分かったから。確信を持って言える。彼は大丈夫だと。
「……ね?一松」
「………俺、アンタに話していいなんて一言も言ってないけど」
「へ?!ダメだった?」
「別に…良いけど」
まさかの一松の返答に声を大にして焦ると、彼は微かに口角を上げる。
あ、笑った。そう思ったのと、
「にゃーおー」
猫の鳴き真似をしたおそ松の声が聞こえてきたのはほぼ同時だった。
「やめろよおそ松兄さん」
「どっか遠くに逃げちゃったのかな。誰かがあんな酷いこと言うから」
「ちょ、おそ松っ…!」
「お前は黙ってて」
一松を煽り、更に意固地にさせかねない発言をするおそ松とそれを止めようとするチョロ松。その後には何も発しないけどトド松がいた。
あんまりな言い方に抗議しようとする私だったが、おそ松の声に止められる。この人の制止なんて聞く必要ない。そう思ったけど、彼の瞳が思いの外真剣で思わず従ってしまった。
「一応チビ太にも言っとく?どこから出てくるかわからないし」
「どうする?一松?」
後ろからひょこりと顔を出したトド松の提案に、一松へ顔を向けた。しかし彼の顔はまだうかない。
先ほどおそ松が放った言葉がかなり刺さってしまったのだろうか。
やはりこいつ、一度痛い目見た方がいいのではないか。私が殴る用意を始めようかと思った時、彼は呟いた。
「いい。別に飼ってたわけじゃないし。死んでも関係ないし」
「一松…」
素直になれない彼の言葉は寂しい響きを持って空気と溶け合う。
思わず呟いた彼の名に呼ばれた本人がぴくりと体を動かした。