第7章 彼の本心
「じゃあな、。手伝ってくれてさんきゅ」
一件落着。
泣いてる泣いてないと騒ぎながら家路につく弟たちとその友達の猫を見つめながらおそ松が私に話しかけてくる。
「ううん、力になれたなら良かった」
「いやいや。力になれたなんてもんじゃないよ?十四松とも話してくれたんだろ?」
こうやって見るとおそ松という人間はやはり彼ら六つ子の長男なのだと思う。
一松だけではなくて、十四松の異変にも気付いていた。
尚且つ、一松の本当の思いを引き出そうとしていた。
弟たち1人1人をきちんと見ていて、正しく導こうとする思いが伺える。
「おそ松はさ、優しいよね」
「なに?突然。そんなおだてられても俺何も持ってないよ?渡せるものと言ったらこの身体くらいで」
「そんなもの求めてるわけじゃないから。変な事言わないで私の話を聞いてよ」
私が何を言いたいのか、きっとこの人は分かっている。
それでも分からないふりをしてはぐらかし続けるだろうことを、私もなんとなく分かっている。
だからこの会話は不毛といっても良いのだけれど、やっぱり伝えることに意味がある気がしたから。
「やっぱりおそ松はお兄ちゃんだから。弟たちのこと、分かっちゃうんだよ。それで世話焼いちゃうから、優しいんだよなって」
「だからさぁ、俺は別に」
「でもさ。お兄ちゃんだからっていつも前に立ってなきゃいけないことないよ?」
おそ松は目を丸くする。
彼のそんな無邪気な表情を初めて見たように思えて、思わず笑えた。
「おそ松がつらい時は、きっと皆が甘えさせてくれるよ。私も含めて、皆。だから頼ってね?」
おそ松は何も言わなかった。
何も言わずに鼻の下をこすって、困ったように笑った。
それはどこか、嬉しそうにも見えた。
今度こそいなくなっていく兄弟たちとその友達。
その賑やかでありながら優しい空気の彼らを見送った私は、清々しい気持ちに包まれながら大きく伸びをした。
「ん~~っ…疲れた…」
体は疲労しているが心は軽い。珍しく今日という一日が良い気持ちで終われそうだと満面の笑みの私。
その背後に、誰かが立った音がした。