第7章 彼の本心
「私は人間じゃないから。一松が何言ったってその言葉を誰かに告げることはないし、返事をすることもない」
「いや、アンタ何言ってるの…流石に引く」
「だから吐き出せばいい。君の溜め込んでた気持ち」
自分でも馬鹿な事を言ってるとは思ってる。
でもこうでもしないとこの人は誰かに弱みをさらけだすなんて真似しないだろうから。
……こうしたところでしない可能性の方が高いなんていうツッコミは聞かない。正直私もそう思ってるから。
一松はぽかんと口を開けていたけれど、やがて呆れたようにため息をつくと私から視線を外して空を見上げた。
やっぱり無理かぁ。
そう思った時、耳に低くて小さな声が響く。
「俺……あんなこと言うつもりじゃなかったんだ」
思わず顔を上げそうになったがぐっと堪えた。彼は私の言葉に乗っかってくれたのだ。ならば私は有言実行しなければならないじゃないか。彼の言葉に動いたりするなんてありえない。
(私は野菜私は野菜私は野菜私は野菜野菜野菜野菜野菜野菜野菜…)
呪文のごとく内心で唱え続けて彼の言葉に反応しないようにする私の隣で、一松はぽつり、またぽつりと言葉を紡いでいく。
「十四松の提案は嬉しかった…アイツと話してみたかった気持ちがなかったわけじゃないから。楽しそうだとか、柄にもなく思っちまった…」
猫が話せたら、一松が喜ぶんじゃないか。
その思いから出された提案は、確かに彼の心に響いたらしい。兄のためを思った十四松の思いは彼にも届いていたようだ。
「でも…アイツがべらべらと色々話したとき、ついカッとなって…衝動的に言った。酷いことを」
一松の拳に力が籠る。震える彼の表情は見ることが出来ない。
「本当のことだったから。隠してきたことを何のためらいもなく暴露されたから…」
やがて最後に落とされた言葉は、空気に溶けて消えていく。
「でも、謝りたい。俺アイツに謝りたい」