第7章 彼の本心
「一松兄さんをデカパン博士のとこに連れて行ったのは俺だし、猫と話せたら良いんじゃないかって思ったのも俺なんだ」
「……」
「まさかこんなことになるなんて思わなくて…ねぇ、ちゃん…俺、どうしよう?」
こんなはずじゃなかった。
兄に喜んでもらおうと、彼なりに真剣に考え辿り着いた答え。
それがまさかこんな事態を招くとは。
この結果に十四松は大きく責任を感じたのだろう。
自分がこんなことを考えなければ、誰も傷つくことはなかったと。
今も兄弟皆が笑ってちゃぶ台を囲んでいただろうと。
「……笑って、十四松」
「え?」
「私、十四松の笑顔が好きだな」
そんな彼に、私は何が言えるだろう。
考える時間はそれほどいらなかった。
「いつも君の笑顔を見ると癒される。それは十四松の家族も同じなんじゃない?だからさ、いつでも笑っててほしい」
いつも通りの君でいて。
私の言葉に彼は目をぱちくりとさせる。
そんな十四松の肩に手を置き、目線を合わせると安心させるように笑った。
「それに自分が間違ってたと思うときに言う言葉なんて1つじゃない?」
「……そっか!」
当たり前の言葉。
誰もが知ってる、だけど大人になるにつれてなかなか言えなくなる大事な言葉。
それを思い出してくれたらしい十四松は、いつものような弾けんばかりの笑顔を浮かべた。
「ありがとう、ちゃん!!俺、急いであの猫探してくる!!」
「え、あっ…十四松…?!」
思い立ったら即行動。
一松にその言葉を告げるにはニャンコの存在が必要不可欠だと判断したのか、十四松は元気を取り戻すと同時に走り出していった。
止める暇もなかった。ほんの数秒前まで十四松がいたところをぼんやりと見つめていた私だったが、やがて小さく笑う。
これで十四松は大丈夫そうだ。
朝ぶつかった時から少し様子が変だと思っていたのだが、話を聞く限り一松とニャンコの件で責任を感じていたのが原因だろう。
それも、今の会話で前向きに捉え直すことができたのだと信じたい。
今(姿は見えないが)の十四松はきっと、軽やかな足取りで走っているはずだ。