第7章 彼の本心
いや、この人が当選でもしようものならこの町終わりだよ。
きっと彼のチャームポイント…チャームポイント?であるあの出っ歯と、シェーのポーズが義務化されることは間違いない。
皆、驚いた時にそのポーズをやるなんて、そんな光景想像しただけでシュールだ。
あれは彼1人がやるからこそ意味がある。
……本心は物凄くやりたくないだけだが。
しかしまぁ、イヤミさんに投票しようなんて思う人あまりいないからそんな心配しなくていいか。
何て言っても政党の名前が"インチキ党"だし。
と、思ったのだが意外や意外。
彼のいる車の周囲には人だかりが出来ていたのだ。
それも少なくない人数の。
「嘘でしょ…」
これ、ヤバくない?
得意げに話し続ける彼をぼんやりと視界に捉える。
その時だった。
『本当は肩書きとお金を使って美人にチヤホヤされたいだけ』
イヤミさんの肩に飛び乗った猫から発せられた言葉が、空気を凍らせる。
ぼんやりとした瞳で、何を思っているのか読めないその猫は。
先ほど私にぶつかってきた猫だった。
「シェー!!!?」
あの猫が喋ったのならそれはイヤミさんの本心。
突然そんなこと言われて動揺した彼はお約束のポーズ。
しかしそのポーズをする頃には彼の周りから人はいなくなっていた。
だんだん彼が可哀想に思えるが、これもまぁ自業自得か。
これに懲りて悪さを止めればいいのだが、ここで終わる彼でもあるまい。
応援はしないけど、強く生きて下さいねイヤミさん。
「…っ、そうだ猫!」
ついつい違うことに気を取られて猫のことを忘れていた。
慌てて周囲を見渡すと、遠くに駆けていく猫の姿が小さく映る。
「…逃がすか!」
あの猫を早く一松の元に帰してやらねば。
その思いと、もう1つあの猫を保護する理由が出来た。
あの猫を放っておくと、おそらくヤバい。
脳裏に浮かぶ最悪の展開に首を振り、今はあいつを捕まえると走り出した。