第7章 彼の本心
すぅ、と息を吸い込む。
近所迷惑と言われようが気にしない。
私がどれだけ怒っているのか教えてやる。
「こぉらぁぁぁおそ松達出て来なさごふっっ!!!」
これだけ大声で叫んだことがない程に全力で叫んだのに何かがお腹に激突してきたことによって邪魔をされた。
突然の衝撃に耐えられなかった体は傾き、そのまま尻餅をつく。
結構痛かった。
「……猫?」
どうせ十四松とかだろう、そんな思いで文句を言いかけて顔を上げると、そこにいたのは1匹の猫。
何かを見透かしているように、透き通った瞳をした猫だった。
猫はしばらく私を見つめていると、やがて駆け出し消え去ってしまう。
「…な、何だったんだろう」
ひどく寂しそうなその瞳が、やけに印象的だった。
「ちゃん?どうしたの、こんなとこで尻餅ついて!!」
やがて玄関から黄色いパーカーを着たやけに明るい彼…十四松が姿を現す。
「十四松…あんた何か言うことないの?」
「言うこと?」
うーんと腕を組んで首をかしげる彼は可愛い。
だがそこまで考えないと思い当たらないのか。
君の兄が1人いないことは君にとって重大じゃないのか。
「あ!!!」
その途端、ばっと十四松が顔を上げる。
ようやく思い出したかと説教しようとしたが、それは彼の声によって遮られた。
「ちゃん、猫見てない?!」
「猫?」
今猫なんてどうでもいいじゃない。
喉まで来たその言葉は発することなく飲み込まれる。
そう聞いてきた彼は今まで見たことのない真剣な表情だったから。
「さっき家から飛び出して私にぶつかった猫なら、向こうに行ったけど」
「向こうね?!ありがとう!!」
私の返事を聞くや否や彼は駆け出して行ってしまう。
その様子がいつもと違ったことがやけに気にかかる。
あの猫に、何かあるのだろうか。
それを聞くなら家にいるであろう彼らに聞くのが手っ取り早い。
汚れた衣服を軽く叩いてから、今度は叫ぶことなく松野家に足を踏み入れた。