第1章 出会った彼は六つ子でした
同じ顔が喧嘩してると物凄く不思議な気分だ。
私のことなど忘れたように言葉を並べていた2人だったが、カラ松さんが突然はっと思い出したように私の方を見る。
「?」
「すまない、お前のことを放っておいて兄さんとばかり。妬いてしまったのだろう?今から可愛がってやるからな」
「いえ、私は別に…あの、カラ松さん?」
「ふっ…他人行儀な呼び方なんてやめてくれ。カラ松と呼んでくれて良いへぶっ!!」
「カラ松さぁぁぁん!!」
他人行儀も何も私とあなたは他人です、そう言おうとした矢先、目の前から良い顔と声で私に迫ってきていた彼が消えた。
その後聞こえる水音。
カラ松さんが再び川に落ちたのだとわかるのに時間はかからなかった。
「いやぁ、ごめんね?うちの弟バカで」
「えと、おそ松さん?でしたよね?」
「そう、俺松野おそ松!よろしくな!」
「よろしくする前にあなたの弟さんをどうにかした方が良いんじゃ」
「弟?どこにいんのそんな奴、ここには俺と君だけだよ?」
「今さっきまでいたのをあなたが突き落としたんですよね?!」
そう、彼が橋から落ちた時はわからなかったが今回は違う。
見てしまったのだ。
おそ松さんが素早い動作でカラ松さんを突き飛ばした場面を。
「まぁどうでもいいよ!それよりこれから飲まない?俺暇してたんだよね」
「え、あの、」
「昼間っから?なんて固いことは抜きにしてさ、行こう!!」
「いえ、おそ松さん、後ろ!」
弟のことなんてそっちのけに私を飲みに誘うおそ松さん。
男の人に誘われるなんて初めて!どうしよう!
なんて感情は一切無かったが、私の顔はおそらく焦りと驚きとほんの少しの恐怖が顕著に表れていたと思う。
その意味を違う風に捉えたおそ松さんはケラケラと笑いながら、じりじりと距離を縮めてきた。
そんな彼の肩をがしりと掴む、水に濡れた手。
おそ松さんの服に水が染み込み、服の赤が血のような赤黒さへと変色していく。
「っ……!!」
「あれ、カラ松。うわめっちゃ濡れてんじゃん!
何でそんなに濡れてんの?」
耳を疑った。
その瞬間、地獄から舞い戻ったかのような表情のカラ松さんが拳を振り上げた。