第1章 出会った彼は六つ子でした
「大丈夫ですか?!」
「っ……ああ、」
幸い川がそれほど深くなかったこともあって、落ちた人は自力で川岸まで泳ぎ付いており、私が近寄った時には無事そうだった。
気休め程度にしかならないだろうがハンカチを差し出すと、相手はすまないと謝りつつそれを受け取り顔を拭く。
そうやってからようやく相手の顔を見ることが出来た私は驚愕した。
そう、
落ちた男性の顔が、先程話した男性の顔とそっくりだったのである。
「ええええっ?!」
「いきなり叫んでどうした?」
思わず声を上げた私だったが、それに対しての彼の反応は冷静だ。
そうか、これが世に言う世界に3人いるといわれる同じ顔の人間か。
同じ国どころか同じ町にいるなんて偶然すぎるだろ。
やっぱりこの街は何かある気がしてきて、背筋が震えた。
この人もさっきみたいに話が通じないのかとも思ったけどそこはやはり別人。
突然叫ぶという私の奇行にも真面目に返すあたり、この人は普通なのだろう。
「ふっ…まさか俺の格好良さに驚き大声を出してしまったのか?わかりやすい奴め」
と思った私がバカでした。
なんかものすごい勘違いをされていてどうしたらいいかわかりません。
「いえ、別にそういうわけじゃ…」
「皆まで言うな。大丈夫、俺には分かっているよカラ松ガール。ここで出会えたのも運命、よければ俺と共に来ないか」
「皆まで言わせて欲しいんですけど…」
この会話にならない感じ、ものすごくデジャヴ。
え、親戚ですか?だからそんなに反応が似てるんですか?
っていうかカラ松ガールって何?落葉松にガールもボーイもあったの?
「あ〜、やっぱり生きてたカラ松!」
「っ、おそ松兄さん!」
「名前でしたか!!!!!」
脳内を松がぐるぐるしていた私と決めポーズで手を差し伸べていた男の人。
そこに先程話した男性、つまり同じ顔の人がもう1人やってきた。
彼によってカラ松の謎が明かされた。
つい出してしまった大声だったが、2人は大して気にしないまま、兄弟げんかをおっ始める。
カラ松って名前だったんですね、落ちた男性の。
そしてカラ松さんの口振り的に橋で話した相手はおそ松さんというのだろう。