第5章 兄弟
「おいぃ!聞いてないぞ!チビ太やめて!おろしてぇ!!」
「チビ太!これはやりすぎだよ!考え直して!」
「バーロー!今更止めるな、あいつらにはこのくらいしねぇとわかんねぇんだ!!」
「分かる前にカラ松が死んじゃうったら!!」
深夜…一体今は何時なのだろうか。
松野家前の通りに男の悲鳴と女の懇願が木霊する。
勿論、カラ松と私のものである。
チビ太の作戦とはカラ松を火あぶりにするというとんでもないものだったのだ。
初めは言われるがまま作業をしていたものの、作業が進行するにつれ違和感を覚え始める。
そして火をつけたチビ太の姿を見て漸く自分のしていたことに気がついたのだ。
遅いし鈍いにも程があった、さっきまでの自分を殴りたい。
懇願しても彼が聞き入れる様子は全くない。
それならもう兄弟たちのカラ松を思う気持ちに賭けるしかない。
「やいバカ兄弟共!カラ松が本当にどうなってもいいんだな!このままじゃ死んじゃうぞ!」
「お願い…!!」
チビ太がメガホンで松野家の2階…つまり彼らが眠る場所に呼びかける。
私も両手を組んで祈った。
こうしている間にも火は燃え広がっている。
カラ松の終わりが、刻一刻と近づいて来ていた。
しかし兄弟たちが現れる気配はない。
それどころか電気さえつかないところをみると、下手すれば起きてすらいない可能性さえある。
「こいつのことを本当に愛してるなら助けに来やがれバーロー!」
「バカお前バカ!早く下ろせチビ!ハゲ!ボケ!」
「愛してなくても良いけど助けてやってよ!!」
「……?」
そんなコントまがいの会話を交えて呼びかけていたとき、ついに松野家2階の窓が開いた。