第5章 兄弟
「あぁ、もう…カラ松泣きなさんな、ほら拭いて?」
「うえぇ…!…!!」
「よしよし…」
いい大人がこんなところで子供のように泣きじゃくる。
しかしそんなカラ松を責めることは出来なかった。
こんな扱いあまりにも可哀想だ。
ハンカチで彼の目元を拭い、泣きついてきた彼を振りはらわずに背を撫でてやる。
私に対してはいつも格好つけていて、あまりこうした気弱な姿を見せてくれることはなかったから、こういう状況はちょっと新鮮で嬉しかったなんて彼には言えない。
そんな私たちの様子を見ていたチビ太が突然立ち上がった。
「こうなったらリベンジだ。あのバカ共にわからせてやるんだよ!この最高の兄弟がもし本当にいなくなったらどんだけ寂しいかをな!」
「チビ太…!」
カラ松の手を握り、力強く言い切るチビ太。
そんな彼の言葉に、カラ松はさらに涙を流した。
「ほんと、この人は…」
そんな2人の姿に、つい笑みを浮かべてしまう。
まだ彼との関わりは短いけれど、チビ太という人は本当に優しい人だと思った。
今だって彼の頭にはもう六つ子のツケのことなど残っていないのだ。
兄弟に見捨てられたカラ松のために、彼の大切さを分からせてやろうという炎に燃え上がっている。
普段かなりの仕打ちを受けているだろうに。
それも彼の人柄なのだろう。
「よし、行くぞカラ松!」
「う、うん!」
「もいくぞ、ぼーっとしてんなバーロー」
「え、私も?!」
お金を払い終えたチビ太の後に続いてカラ松と共に店を出た。
チビ太には既に案があるようで、全部俺に任せろと頼もしいご様子。
……さて、チビ太はどういうやり方で彼らに分からせるのだろうか。
私だって今回の件は結構腹立たしい。
経緯を見ていたから尚更だ、誘拐された人間に身代金を払わせようとするなんて常識では考えられない。
そろそろお灸を据えてやらないとね。
隣を歩くカラ松を安心させるようにその手を握ると、彼は弱々しく握り返してくれた。