第5章 兄弟
そしてそこで私が見たものは。
「俺もっ、梨食いたかったぁぁぁ!!!」
大号泣しているカラ松と、それをおろおろとなだめるチビ太の姿。
「……え、泣きどころそこなの?」
聞かずにはいられなくて開口一番そう言ってしまった私に気付いたチビ太とカラ松。
チビ太はやばいと露骨に焦りを露わにし、カラ松は涙いっぱいの目で私を聖母か何かのように見ていた。
「…?どうしてここに」
「イヤミさんに聞いた。もう、チビ太ってば何やってんの」
「てやんでい。こいつらがツケ返さねぇからだ……まぁ、失敗しちまったけどよ」
カラ松の隣に座り、怪我がないかを確かめる。
寝間着姿であるものの特に外傷はないようだった。
……心理的には大怪我かもしれないが。
兄弟に心配してももらえず、更には梨に負けてしまったカラ松。
その胸中は測ることができない。
チビ太の話によると最初こそ抵抗していたものの、兄弟たちの会話を電話を通して聞いた後の彼は諦めきった瞳で地平線を眺めていたらしい。
「…カラ松、あの、元気出して、ね?」
「……」
「あの人達だって、心配してないわけないよ。松代さんに相談しようとしてたしさ」
「金のことをな」
「チビ太、余計なこと言わないで!」
人がフォローに回っているというのに。
チビ太の容赦ない言葉でがっくりと肩を落としたカラ松の目からは再び熱いものが流れ始めた。