第1章 出会った彼は六つ子でした
イヤミさんと別れて少し歩いた今、やはり思う。
ここは今まで私がいたところとは全く違う、と。
頭に旗を刺した少年が同じく旗を刺したSPに護衛されながら歩いていたり、パンツしか履いていないおじさんがいたり。
町を少し歩いただけでこれだけ凄い人たちと出会うのだから、これはこの町の普通なのだろう。
「…やっていけるだろうか…」
ここにきてまだ1週間目なのに挫折しそうになる。
これは早く仕事で結果を出して出世をするしかなさそうだ。
この町のペースに巻き込まれる前に、ここの人達の色に染められる前に、逃げ出さなければ。
そんか決意を固めた私の足は、一本の橋にさしかかる。
その橋から、突然人が落ちた。
「って、ええええええっ?!?!」
勝手に落ちたのか誰かが落としたのかわからないが、落ちた人のそばにいたと思われる男性は何事もなかったかのように去ろうとする。
その腕を気付けば掴んでいた。
「ちょ、ちょっと!!」
「え、何?もしかして逆ナン?俺のモテ期きちゃってる感じ?うわぁ、ちょっと待ってよ心の準備が」
「違うからそんな心の準備しなくていいです!それよりも今落ちた人、良いんですか放っておいて?!」
「落ちた奴?…あーいいよ別に」
「さっきまでの笑顔は?!何で突然無表情になるんですか!しかも放っておいて良いんかい!」
「大丈夫大丈夫〜」
私が声をかけた瞬間はぱあっと効果音が出そうな程に輝く笑顔を見せていたのに、橋から落ちた人の話になった瞬間彼から表情が消えた。
え、そんなに助けたくないんですか。
知り合いじゃないんですか?
慌てる私とは対称にやけに落ち着いた彼は私が何を言っても曖昧な返事を返してきて、正直会話にならない。
結局適当にはぐらかされて彼はいなくなってしまった。
周りを見渡しても誰かが落ちた人を助けたような気配はない。
もしかしてこんなのこの町の日常茶飯事なのだろうか、だから皆知らん顔しているのだろうか。
なら私もこのまま帰っていい?
いやしかしこれが近年の日本の傾向という可能性も大きいし、
「っ、あぁもう!!」
やっぱり放ってはおけなくて、川岸へと駆け下りた。