第5章 兄弟
その後カラ松とチビ太を探して街を走り回った。
"カンチョー"は"満潮"のことではないかと踏んで一番最初に向かった海だったが、そこには既に誰もいなかった。
だから街に戻ってきているのではないかと思っているのだが。
「…もう…どこにいんの」
あまりに慌てすぎて周囲に注意を払わずに曲がり角を思い切り曲がる。
こういう時に限って人とぶつかるのだ。
今回も例に漏れず目の前に現れたおそらく男性とぶつかり、したたかに腰を打った。
この急いでる時に曲がろうとしたタイミングの悪い奴は誰だ。
「って、イヤミさん!」
「おや、チミザンスか。久しぶりザンスね!」
「お久しぶりです、ぶつかってすみませんでした。ではこれで」
それは以前私に六つ子に関わるなと忠告してくれた、謎のポーズがお気に入りのイヤミさんだった。
しかし今彼と話している暇はない。
早々に謝罪して立ち上がり、去ろうとしたが突然彼に足を掴まれた。
「ちょっと待つザンス!」
「ひゃあ!何するんですかっ!!」
「シェー!?」
「……あ、ごめんなさい」
いきなり掴まれたことに驚いて思わず回し蹴りをかましてしまった。
それは見事にイヤミさんの顔に直撃し、彼は以前もとっていたポーズをして吹っ飛んだ。
なんだろ、あのポーズは彼のこだわりなのだろうか。
「で、何ですか足なんか掴んで引き止めて。私急いでるんですよ……あ、駄目元で聞きますけどチビ太かカラ松見ませんでした?期待してませんけど」
「何気に失礼ザンスね…六つ子に近しいものを感じるザンス。チビ太ならさっき見たザンスよ」
「六つ子に似てますかね私。そうですよね知りませんよね………え、知ってる!?」
「勿論ザンス、さっきそこの居酒屋に入っていったザンスよ」
「そんな大事なことは始めに行ってくださいよ、もう……あ、イヤミさんあなたが後ろ向きで渡ろうとしている横断歩道、赤です」
「シェー?!?!」
そうしてイヤミさんは突っ込んできた車をいつものポーズでさらりとかわして去っていった。
何やらいろいろ話題が交錯したよく分からない会話だったものの、チビ太の居場所は分かった。
服についた砂を払い、身なりを整えると、彼が示していった居酒屋の扉を開けた。