第5章 兄弟
「カラ松って誰」
「鬼かお前ら。身代金としてはまだ安いだろ」
一松のカラ松への当たりが強すぎる。
彼はどうしてこんなにも可哀想な扱いを受けているんだ。
いや、まさか兄弟のうち誰が誘拐されてもこんな対応なのか。
私の困惑をよそに、六つ子(チョロ松以外)はなんと身代金の支払いを押し付け合い始めた。
金を貸してるからこいつに。
いや俺はこいつに金貸してるから。
そして出た結論は。
「じゃあ、身代金はカラ松に払わせよう」
「「どういうこと?!」」
私とチョロ松の言葉が見事に重なった。
誘拐されてる本人が身代金払うってなんだ。
それが出来たらカラ松とっくに帰ってきてるんじゃないのか。
そしておそ松は寝癖直した方がいいと思う。
ものすっごく気になるから。
「金のことは無理だよ、母さんに相談しよ」
一応カラ松を助けようとする気はあるらしい。
絶対的存在、母親に頼ろうとトド松が提案した瞬間、見計らっていたかのように松代さんが部屋に来た。
「あ、お邪魔してます」
「あらさん、こんにちは。ニート達!梨が剥けたわよ!あなたも良かったらどうぞ!」
松代さんが持っていたのは皿いっぱいの梨。
ご近所さんに分けてもらったらしい。
一斉に梨にかぶりつく5人。
私も一切れもらったが、甘くて美味しかった。
「……あ、そうだ」
チョロ松は通話を切っていなかった気がする。
通話相手に取引場所とか聞いておこう。
あいつら役に立たなかったら私がなんとかしなければ。
そんな思いで玄関に戻り受話器を耳に当てた。
「もしもし、取引場所とかって…」
《?!》
私の声を聞くと同時に、向こうから驚いたような声が聞こえる。
あれ、なんで私の名前を知っているのだろう。
「…っていうかこの声」
その瞬間通話が切られた。
暫く受話器を持って呆然としていた私だが、やがて聞き覚えのあった声が誰だったかを思い出すと、壊れた扉を踏んづけて外に飛び出した。
私の記憶が間違っていなければ、あの声は。
「チビ太……?」