第5章 兄弟
チョロ松もそう思ったのだろう、遂に十四松から受話器を受け取り自分で会話をし始めた。
私も自分の頭で整理してみよう。
相手はカラ松の何かを伝えようとしてきている。
十四松が聞き取った"妖怪"と"カンチョー"。
果たしてこれにどんな意味があるのだろうか。
いや、待て。
これが彼の聞き間違いだとしたら、その本当の言葉って…。
「………わからん」
考えたけど全然分からない。
以前のトド松の行動の真意のように閃くことは無かった。
まぁ私の頭なんて所詮こんなもんだ。
……姉さんだったら、分かったのかな。
昔から幼い私のよく分からない言葉の意味を、唯一姉が理解していた。
そんなあの人なら、十四松の言葉の意味を分かったのだろうか。
「えぇ?!」
チョロ松の叫びに意識を現実に引き戻される。
「え、何?本当にカラ松妖怪になって海でカンチョーされて死ぬの?」
その驚きようが尋常じゃなくて、まさかと思って彼の顔を見るとそれは蒼白。
青ざめて、嫌な汗が垂れているチョロ松は、そのまま受話器を放り出して皆の集まっているだろう部屋の襖を勢いよく開けた。
「ヤバイよ!カラ松が誘拐されちゃった!!!どうしよう!!」
「えぇっっ?!?!」
「どーしよー」
「いや危機感!何寛いでんの?!」
「つかおそ松起きてんじゃん!!」
誘拐、カラ松が。
それはとんでもない事態じゃないか。
なのにちゃぶ台に寄りかかっていた長男と末っ子は物凄く興味なさそうだった。
というかおそ松さっきもう一眠りするとか言ってなかったっけ?
「兄弟の命がかかってんの、このままだとカラ松死んじゃうかもしれないよ?!」
「やばいやばいやばやばーい」
「…舞うな一松。兄の失踪を喜ぶな!」
「何でそんなにカラ松のこと嫌いなのこの子!」
腕をうねらせて珍しく笑顔の一松にチョロ松が釘をさす。
すごくこの人の笑顔は珍しいけどこんな時に見たくはなかった。
「誘拐ったって金なんかないよ?どうせ身代金とか言うんでしょ?」
「100万だって」
「カラ松兄さん取り戻すのに100万も掛かるの?!」
トド松、何てことを。
この間の件で知ったがこの子は可愛い表情の裏にどす黒いものを抱えている。
待って、この兄弟もしかして助ける気ないの?(チョロ松以外)