第1章 出会った彼は六つ子でした
この町はどこかおかしい。
それが私の抱いた感想だった。
いや、見た目は確かに普通だ。普通の街並みなのだが、住人がどこかおかしい。
そう感じたのはかれこれ一週間前、つまり引っ越してきてすぐのこと。
新しく世話になる会社の人達に挨拶をした帰りに出会ったある人物。
「おや?チミ、見かけない顔ザンスね」
「……はぁ」
なんでか知らないが不思議な人に絡まれた。
町に1人や2人知らない人がいるなんて普通じゃないのだろうか。
都会でそんなの気にしていたらやっていられないよ。
むしろ知った顔に会う方が難しいんだから。
「最近越してきたもので。今会ったんで覚えて下さい」
「来て早々ミーに会えるなんてラッキーザンスね、ミーはイヤミ。まぁ何かあったら頼ると良いザンスよ!」
「……です」
名乗られてしまってはこちらも名乗るしかない。
出来ればもう会わないほうがいいと私の勘が告げているから、早いとこ離れたいんだけどな。
そもそも"イヤミ"なんて凄い名前ですね。
そんなことを思いながらも親切に名刺を差し出してくれた彼と名刺を交換すると、別れ際、振り向きながらにこんなことを言われた。
「そうそう!六つ子には絶対に絡まない方が良いザンスよ!!ろくなことにならないザンス!!」
「六つ子?……あ、イヤミさん、後ろ段差です」
「シェー!!?」
すごい奇声をあげながら謎のポーズと共に落ちていったイヤミさんが立っていたところをぽかんと見つめる。
六つ子って、何のことだったんだろう。
首を傾げても分かるはずがなく、考えるのはよそうとその場を後にした。
後にその忠告を後悔するとも知らずに__。