第4章 誰を養う?
「では気を取り直して、只今より松野家扶養家族選抜面接を始めます。この面接に合格した人は、晴れて母さんの扶養に入れます。皆さん、存分にいい息子アピールしてください、よろしくお願いします!」
『よろしくお願いしまぁす!!』
本当に始まってしまった、兄弟同士の醜い争いが。
私は1人1人の書類を見ながら話を進める松代さんのお隣に座らせてもらいながら居心地の悪さを感じていた。
六つ子たちの仁義なき争いがここに幕を開けたのだ。
約1名、マジでやるの?みたいな顔をしているが。
チョロ松、頑張って。
君は多分ここでツッコミに回ると扶養に入れないよ。
「じゃ、アピールしたい人ー」
「かっる!!」
「……見届け人、何か?」
「いえ、何でもありません」
なんでもあるけどね?!?!松代さんが何か怖くて何も言えないだけだけどね!?
面接でそれなりに真面目にやろうとしているのかと思いきやこれだ。
流石この六つ子を育て上げた母親、そこらの母とは物が違う。
そして息子。
他の兄弟を押しのけるようにして挙手し、我先にとアピールタイムを求める。
見ていてこちらがつらい。
ここでこんな争いは馬鹿げていると言える人間は松野家にいないのだろうか。
そう、ため息をついた時だった。
「すいません!!!」
一際大きな声で叫んだ人、トド松が立ち上がった。
その真剣な声色と表情に、他の兄弟の手が止まる。
「面接の前に、1つ良いですか?」
「えーと、末っ子のトド松さん?」
なぜ頑なに面接形式を保とうとするんだこの人。
目線だけ動かして彼女がトド松と判断するのに使った資料を盗み見ると、それは……。
それは彼らが幼少期に書いたのであろう母の日の手紙だった。
「最早書類ですらない!!!」
「え、何が?!」
「そこの2人、お静かに」
「「……すみません」」
驚愕した私の言葉に目を見開いたのはチョロ松。
おそらく彼も書類が何か気になっていたのだろう…しかしこれは書類じゃない。
言ってしまえば彼らの黒歴史。
プラスどころかマイナスに作用しかねない爆弾だった。
チョロ松…頑張れ。
そんなことを考えていた私を無視してトド松は口を開いた。
「僕はこの面接を辞退します」