第3章 取引先もハタまたすごい
「それではですね、今回お勧めしたいのがこちらの製品でして…」
上司が何も言わずに商談に入るということは彼がミスターフラッグで間違いない。
ないのだが……。
あなたですかっっ?!?!
と叫びたくなるのも無理ないと思う。
彼は社長というより、公園の砂場とかで遊んでいる方が似合うような可愛い少年なのだ。
もちろん頭に旗を刺してはいるが。
こんな彼が、この絢爛豪華なビルを所有する社長、ミスターフラッグだなんて。
何して稼いでるんだろう。
純粋な興味から彼をじっと見ていると、ふいに目があった。
「新しい人がいるジョー」
「はい、今日からの新人です!…ほら、」
「え、あ…です」
上司に促されて自己紹介をする。
よろしくダジョーと笑う彼はやっぱり可愛くて、彼が社長でなければ抱きしめているところだ。
「、よろしくダジョー!」
「は、はい。ミスターフラッグ」
「でですね、ミスターフラッグ。先日頭にしか旗を刺せないのは不便というお言葉から、我々は今回こんなものを作りまして…」
言いながら上司は鞄から書類を取り出す。
そこにある写真を見たミスターフラッグがおお!と声をあげたので釣られて覗き込んだ。
そこにあったのは巨大な旗。
「………へ?」
「こちらをお尻の方に刺していただけると、頭には刺さなくていいということなんです、はい」
いやどういうことだ?!
私の頭は途端にこの商談の内容が分からなくなった。
いや、1つのことを理解すればあとはわかるのだろうが、そのたった1つを理解することを頭が拒否しているのだ。
しかし現実はむごい。
「いやぁ、素晴らしいですね。ミスターフラッグ!頭ではなくお尻に刺すなんて考え思いつきませんでしたよ。いやいや脱旗ですな、流石創業時から我が社の旗を作り続けてきた会社だ」
おじさん、それを言うなら脱帽です。
ちょっと無理ないかな?そこで旗を使うのは。
でも、ああ、これではっきりしてしまった。
私が勤め始めた会社は旗を作っているのだと。
この人達の頭に刺す旗を作って生計を立てているのだと。
「あ、はは…」
私はなんてとこに異動してきたんだろう。
乾いた笑いしか出なかった。