第3章 取引先もハタまたすごい
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
社員と思われる人に案内をされながら、建物を歩く。
私も上司も相手方の社長に見せる新商品の入った箱を乗せた台車を押しながら移動しているので必然的にそのスピードは遅くなる。
折角なので建物の中をじっくり見ているのだが、これがまたすごい。
品の良い調度品、手入れの行き届いた植物。
ぴかぴかの家具。ふかふかそうなソファ。
まさに豪邸。
ここは社長の自宅兼会社なのだろうか。
申し分なく素晴らしい室内、ただそこにそぐわないものがあるのが気になって仕方ない。
「お足元、段差がありますのでお気をつけ下さい」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、それにしてもあなたのような若い方がこんなところまで…ハタらき者ですな」
「……あはは」
そう。
彼らはなぜか「旗」を推している。
そもそも建物に入った瞬間から突っ込みたかったのだ。
中にいた社員全員が頭に旗を刺していたのだから。
叫びたくなったところを上司に止められ、その後も取引相手の機嫌を損ねるなとくぎをさされて仕方なく黙ってはいるが、本心はもう聞きたくてたまらない。
あぁ、ここにチョロ松がいたら突っ込んでくれたのかな。
ここにはいない人…それも先日報復を誓った相手に助けをなんとなく求めていると、社長室に辿り着いた。
「失礼します、ミスターフラッグ、お客様がご到着です」
「…名前、でしたか」
「?何か言いましたか?」
「いえ何も」
この街の人のネーミングの仕方ってわからない。
イヤミさんといい六つ子といい、そしてまだ見ぬミスターフラッグといいどうしてこうも特徴的な名前なのだろう。
キラキラネームにも負けないよ、これ。
台車を壁に寄せて固定すると、上司の横に並び頭を下げる。
「おはようございます、ミスターフラッグ」
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
私達の言葉を聞いて、社長が座っていると思われる椅子がゆっくりとこちらに回る。
そこにいたのは……
「おはようダジョー」
「……へ?」
小さくて可愛らしい、これまた頭に旗を刺した少年だった。