第2章 可愛いなんて生温い(刀剣乱舞/御手杵)
「……ねっ!!御手杵!!」
悲鳴にも近い声が鼓膜を叩き、意識が浮上する。
一瞬飛んでたのか。危ない。危ない。
意識がはっきりすると共に、徐々に身体に感覚が戻ってくる。しかしながら、正直歓迎しがたい感覚ばかりだった。
全身が泥に浸かっているような酷い怠さと鈍い痛み。吐き気と息苦しさに身をよじらせれば、腹の辺りから衝撃が走る。
そういえば意識を失う前に、敵の大太刀に腹をぶっすりやられたのだった。勿論その大太刀は直後に自身の手によって破壊してやったのだけど。
傷は思っていたより深かったらしい。もはや熱いのか痛いのかすらよくわからない。
「ねぇ!聞こえる!?私がわかる!?」
声のする場所へのろのろと視線を向けた。左目はよく見えない。けれど、右目だけでも充分だ。見えなくたって、声だけでもわかる。わからないはずがない。
「あ、る……じ」
渇ききった喉から掠れた声を絞り出し、軽く咳き込む。
口のなかに血の味が広がった。呼吸器官もやられているようだ。
「良かった……!意識はあるのね……!!」
今にも泣き出しそうな顔をした、若い女。いつもは健康的に色付ているはずの幼さの抜けないふっくらした頬は、すっかり血の気が失せて蒼白だ。
「主、その顔不細工だ」なんて言ってやりたかったけど、そうさせているのは御手杵自身だと気付いて、なんだか妙な気持ちになる。
「待ってて、今すぐ手入れするから!大丈夫、私が治してあげる。きっとすぐに良くなるから」
そう言って、手入れの準備をするために背を向けようとする主の着物の裾を握ってしまったのは、半分無意識のようなものだった。