第2章 可愛いなんて生温い(刀剣乱舞/御手杵)
「……御手杵?」
振り返った彼女の、驚いた表情。
なんてことない。見慣れた顔。
あまり一般人の女を見る機会もないが、恐らく平凡と言えるのだろう。
いつもより蒼白な肌と固い表情は痛ましく、見てられるようなものじゃない。
だというのに、
「どうしたの。今用意してくるから、少し待って……」
「……なぁ、アンタって……かわいんだな……」
「…………え」
あまりに場違い過ぎる発言に、彼女の強張っていた顔が、一瞬ほどける。
「……いや、可愛いって言うか、なんか」
自身を映す、潤んだ瞳も。
震える吐息を吐き出す唇も。
汗で髪の張り付いた首筋も。
堅く握り締められて白くなった小さな手も。
その下で心なしか早く上下する胸も。
「なに、言って」
「アンタって、そんなに……あぁ、ダメだ。なんか、上手く言えねぇけど、今のアンタ、見てると、すげぇ……ぞくぞくする」
痛みや熱さとはまた異なる、否、それを凌駕する感覚。
腹の底が溶けた鉄でも押し込められたかのように重い。身体を苛む苦痛混ざりドロドロと熱く粘つき、渦巻く。
「い、今は、そういう場合じゃ」
困惑と羞恥に、視線が忙しなくさ迷い、ふわりと紅が差す頬。
腹の底がズンっと一層重くなる。
強い衝動に突き動かされ、華奢な肩を掴んで抱き寄せた。
身を起こせば全身が悲鳴を上げ、腹の傷から意識が遠退きそうな激痛が走るが、構わない。
それよりもこの欲求を満たさなければ、この火口から溢れる溶岩のような灼熱に、内側から自身を焼き付くされて死んでしまう。