第1章 プラネタリウム(HQ/二口堅治)
ザクザクと芝生を踏んで近付けば、健やかな寝息が耳につく。
……信じられない。コイツ寝てやがる。
「……あのー、ちょっと」
傍らにリュックをドサッと些か乱暴に置き、しゃがんで声をかけた。
光源といえば切れかっかった誘蛾灯しかない視界の悪さだが、これだけ近づけば流石に見える。
「……何でこんなとこで寝てんのこの人」
河川敷で寝こける非常識な人間は、見知った顔だった。あどけない寝顔は特別美人というわけでもないが愛嬌があり、スカートから覗く白い脚がやけに目につく。
……これはなんというか、無防備すぎだ。不埒な輩に何をされてもおかしくないだろう。
頭痛を堪える二口の前で、呑気に「満腹……ふふふ……」などと寝言を呟く姿に、イラッとしたのは言うまでもない。
「さん!!」
大声で名前を呼べば、彼女……はむずがるように呻き、二口の声から逃れるようにごろりと横を向いた。その動きに合わせて際どい部分まで捲れるスカート。
「……何、俺のこと試してんの?」
そうかそうか、それなら期待に応えてやらないとね!と自棄っぱちでの肩に手をかけようと腕を伸ばす。
そこでようやくの目蓋が震え、うっすら開かれた目が二口を映した。
「……んん?どちら様……?」
「……こんばんわ」
「……あれ、二口くんだ。やっほー」
「やっほーじゃないですよ。何やってんですかこんなとこで」
二口の刺々しい言葉など気にした様子もなく、芝生を髪にくっつけたまま起き上がったは呑気に欠伸をこぼす。
「ふわぁ……、んー、うん?二口くんをね、待ってたの」
「…………は?」
目を丸くする二口に、はあくまでマイペースに「ほら、ここ。隣り座って」と、ぽんぽん芝生を叩く。