第1章 プラネタリウム(HQ/二口堅治)
二口が『それ』を見付けたのは偶然だった。
なんせ、部活帰りである。自主連をして下校時間ギリギリに学校を出れば、辺りは既にとっぷりと夜闇に浸されていた。おまけに二口の通学路は明るい街中とは真逆の、灯りも人通りも疎らな河川敷の遊歩道だ。
その河川敷に無造作に放置されたリュックが目についたのは、その明るい色合いせいか。
辺りに視線を巡らせるが、遠くの方に犬の散歩をする人の影しか見当たらない。
「……めんどくさ」
二口は顔をしかめて明るい髪を掻き回す。
自分の無口な同輩や喧しい後輩辺りなら持ち主を捜そうと奔走するのだろうけど、二口は見ず知らずの他人のそこまで労力をかけられるような性格ではない。
……よし、見なかったことにしよう。
五秒の葛藤の末、二口は決断した。
大体、こんな所に放置しておく悪いのだ。
ハンカチやら携帯やらならまだしも、リュックを落とすはずがない。本人の意思でここへ置いたのだろう。ならば自己責任だ。漁られようが盗まれようが二口の知る所ではない。
しかし、不意に視線を上げた二口はまた『それ』を見付けてしまった。
河川敷の芝生にごろりと仰向けに寝転ぶ『それ』は、どう見ても人間であった。しかも、身に付けているのは二口と同じ伊達工の女子の制服である。
「…………」
そっと目をそらせば、点滅を繰り返す誘蛾灯の下、電柱に張り付いた掠れた『痴漢注意!』の文字。二口はその場で頭を抱えた。
……わかったよ。声かければいいんだろ。わかったよ畜生!
誰に言うわけでもなく心の中で悪態をつき、彼女のものらしきリュックを拾う。