第4章 ある日の朝(アルスラーン戦記/ギーヴ)
「!?おい、大丈夫か!?だから身体が辛いはずと言っただろう!」
「……だから、誰のせいだと……!!あのねぇ、今日は街に行く日なの!薬を卸したり当面の生活に必要な買い物する大事な日なの!なのにその準備がまだ一つも出来てな……」
慌てて寝台から飛び降りて、私を支えるギーヴに文句を捲し立てていたその時、あらぬ所からドロリと何かが滑り落ち、足を伝う。
昨日散々交わったギーヴの証。床に白い水溜まりを作るほどのそれに、羞恥よりも先に目眩がした。
「あー……その、なんだ。……すまん」
「……貴方、認知してないだけで、実は軽く十人くらいは子供いるんじゃないの」
大事に育てた薬草にへばりついた害虫を見るような目に堪えかねたのか、ギーヴは引きつった顔で、首が千切れんばかりに勢いよく横に振った。
「いない!大体この俺がそんな初歩的な間違いを犯すはずがないだろう!」
「……え」
「相手にも俺自身にも後腐れない、一夜限りの甘美な夢。それが俺の信条で……」
「……ま、待って、待ってギーヴ」
震える声で遮れば、ギーヴはまだ疑うのかとばかりにむっとした表情を見せる。
「一夜限り、って」
「うん?俺は世の様々な美女を愛でなくてはならないという使命がある故。名残惜しいが、一度愛でた美女とは一夜の儚い夢として夜が明けぬ内にお別れすることにしている」
「嘘……だって、各地に馴染みの女が居るんじゃ……」
「……待て、。俺がいつそのようなことを言った?お前、まさか何かとんでもない誤解をしていないか?」
「……違うの?」
「違う!!……大体、彼女らには心地よい夢を見させるためにも、身の上話にはちょっとしたスパイスを混ぜていることもあるからな。うっかり再会でもしたら詐欺師だのなんだの非難され、時に無粋な輩を俺に差し向けたりすることがあってだな」
「……じゃあ、何で」