第4章 ある日の朝(アルスラーン戦記/ギーヴ)
……いや、待て。夜明け?
…………朝!?
寝惚けた頭が一気に覚醒した。ギーヴの腕と感傷を引き剥がして跳ね起きる。
身を清めたギーヴに、まだ朝だとか仕事がと主張する私の口を塞いで、無理矢理寝台に引きずり込まれたのは覚えている。
いつも以上に色々と、しつこくねちっこくされたのもなんとなくわかるが、それ以降の記憶がない。
………いや、そもそも昨日はそれ以外のことをしていないのだ。家事も、食事も……仕事も。
ぶわっと冷や汗が噴き出す。
……まずい。
まずいまずい、まずい!!
今日は月に一度の、近隣の街へ出る日だ。
薬を卸し、馴染みの行商人から仕入れてもらった薬草を買い取り、食料や生活用品を調達する日。
だというのに、何の準備も出来ていない。
するつもりではあったのだ。昨日、ギーヴにあれこれされている内に過ぎてしまった時間に。
今から準備をして取引先との指定の時間に間に合うだろうか。いや、間に合わせるしかない。
寝台から勢いよく飛び出そうとしたその時、剥き出しの腰に逞しい腕が絡み付く。
「う……む、何だ……こんな朝早くから……。昨日は無理をさせた。まだ身体も辛いはずだろう……。ほら、おいで。一緒に眠ろう……」
「……誰のせいよ誰の!!」
寝惚けたギーヴの呑気すぎる誘いにブチ切れた私はきっと悪くない。
脳天に手刀を落として、痛みと驚きで目を白黒させるギーヴを置いて今度こそ寝台から出る。
が、諸々の痛みにその場で崩れ落ちることとなった。