第3章 玉砕、のち(刀剣乱舞/御手杵)
「何で逃げるんだよ」
「…………」
御手杵が私に接触を図ってきたのは、一時限目十五分前のことである。
通学路で別れてから十分も経っていない。早い。早すぎる。
教室に入るなり、鞄も置かずに私の机の前を陣取る。私の目は赤いままだし、当然気持ちも落ちついていない。
……私さっき話しかけないで的なアピールしたよね?明らかに泣いてた形跡あるよね?
まともな感性の持ち主なら、私の振る舞いに腹を立てるなり気まずいなりで、避けるはずだ。
流石は御手杵。いや、褒めてないけど。
「……じゃあ、何で追いかけてくるの」
「逃げるからだろ」
「私は御手杵とはしばらく話したくないの」
「俺は話したい」
「お断りします」
「嫌だ」
目をそらして冷たくあしらっているにも関わらず、御手杵に決して諦める素振りはない。
……やめてほしい。
追いかけてきてくれて、私の拒絶にも臆せず踏み込んできてくれて、嬉しいと思ってしまう。
期待してまう。
御手杵の優しさを都合良く解釈して、勝手に期待して、勝手に傷付く。自分の浅ましさがどうしようもなく嫌だった。
なら始めから期待させないで。どうせその気もないくせに。放っておいて欲しいのに。
いつまでも平行線を辿る会話に、先に堪えられなくなったのは当然私の方だった。
「……だから!!告白してフラれたのに、平気な顔で今まで通り友達なんてやってられるわけないでしょ!?こっちは一昨日からショックで泣きまくって学校も休んでたってのに、何で振った本人が普通に構ってくるの!?今まで通り傍にいたら期待するし、諦めきれなくなるじゃない!!だから距離を置こうと思ったのに、ちょっとは私の気持ちも考えてよ馬鹿!!!それとも何!?私と付き合ってくれるわけ!?」
「いや、それは無理」
即答である。
……何で二回もフラれなきゃいけないのもうやだしにたい。