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【短編集】シュガーを一匙、ミルクはお好み

第2章 可愛いなんて生温い(刀剣乱舞/御手杵)




 彼女が言葉を発する前に、隙間なく唇を擦り合わせる。その柔らかさに背筋が溶けそうなほど熱くなった。
 逃げようとする小さな頭の後ろを、さらさらと指から零れる髪を掻き混ぜるようにして抑える。

 角度を変えようと僅かに離すと、何かを言おうと小さく開かれる濡れた唇。ふっくらした下側に歯を立てれば、驚いたように跳ねる身体。歯の隙間に舌を差し込み、奥で震えるそれを絡めとる。
 呼吸の間、御手杵を呼ぶか細い声が、堪らない。
 戦とはまた異なる興奮に、骨の髄まで満たされる。

 いつかに見た映画を思い出す。
 命の危機に瀕しているのに、命を繋ごうとする女に口づける好色な男。
 今ならわかる。何故あの男が女に口づけたのか。
 そりゃそうだ。酷い苦痛に苛まれる痺れた頭で、抗えるはずがない。こんな強すぎる快楽の衝動。

 ただし、全てを知っているような顔をしていたあの男とは違い、御手杵にはこの衝動の理由も、この行為の意味も、わからない。
 ただひとつ、わかるのは。

『何でかな。こんなことになっているのに、今君がいつもより可愛く見えて仕方ないんだ』

 とんでもない。
 いつもより可愛いなんて、そんなまさか。

 そんな表現じゃ生温い。


 今の彼女は、最高にそそる。


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