My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「……俺は生まれた時から、"第二使徒"って枠組みを付けられてた。調べたなら知ってんだろ」
「……うん」
ぽつぽつと、神田の口から零れ落ちる言葉。
無表情だけど、どこか何かを思い出すように。
…こんなふうに自分のことを話してくれたのは、初めてだった。
「俺のことを"人"として呼んだ奴は、周りにいなかった。…別にんなこと気にしたことねぇが、だから俺は人間とは違うもんだと思ってた」
そう言って、宙を見ていた神田の黒い目が私に向く。
「お前みたいに、俺のことを知っても人間だなんて言う奴は珍しいと思ってな。それだけだ」
「……そっか」
神田のことだから、多分本当に気にしてないんだろう。
人間否定されるなんて、大きなことだけど…神田は強い人だから。
…でも。
「それでも…私には、神田は人間だよ」
綺麗事なんかじゃなくて。
今感じたこの気持ちを、神田に伝えたいと思った。
真っ直ぐに迷いなく思える、この気持ちを。
「だって他の誰でもない、神田が私に教えてくれたから。…自分以上に他人を想える気持ち」
愛してる、というにはまだ未熟かもしれないけど。
「…人を愛するって、そういう気持ち」
それでも確かに、そう思えたから。
「そんな気持ちを抱けるのは、人だからでしょ」
教えてくれたのは、亡き両親でも小母さんでもクロス元帥でも、他の誰でもなかった。
目の前にいるこの人が、私に教えてくれた。
「ありがとう」
素直な気持ちをそのまま吐き出せば、間近にある神田の目が一瞬丸くなる。
「……前に同じようなことを言った人がいた」
それは一瞬だけで。気付けばその口元には、僅かな笑みが浮かんでいた。
「そうやって笑って、"人を愛する"ってことを俺に説いた人が」
そう呟く神田は確かに静かな笑みを浮かべていたけれど、どこか哀しいものにも見えた。
どこか哀しく、笑う顔。
今まで神田の色んな笑顔を見てきたけど、そんな笑みは初めてだったから。
思わず息が詰まる。
…誰だろう、その人。