My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「今ならわかる、あの笑顔の意味が。……捨てたもんじゃないって思えるんだな」
「え?」
緩く回されていた腕が僅かに力を入れて、私の体を抱きしめる。
「この世界も、捨てたもんじゃないって思える」
こつりと、重ね合わされる額。
長い睫毛の縁取られた目を伏せて、そう囁くように口にする神田は。穏やかな表情をしていた。
「…っ」
なんだろう。
神田の過去を詳しくは知らないけど…教団で一人で立っていた神田だから。
世界を嫌うように、誰も寄せ付けず立っていた神田だから。
そんな神田が、そうやって世界を認めてくれている。
それだけで、なんだか泣きたくなった。
泣きたくなるくらい、嬉しくなった。
「…うん」
そんな気持ちを上手く言葉にはできなくて、ただ頷くことしかできなかったけど。
だから代わりに、その僅かな距離を埋めた。
「──」
私から距離を縮めて埋めた、お互いの唇と唇の距離。
それは微かなものだったけど、確かに相手の体温を感じて。ゆっくりと顔を離せば、ぽかんと驚いたように見てくる神田の顔があった。
珍しいけど、時々見たことのある顔。
年相応に見える、ちょっと幼い顔。
「うん」
もう一度、頷き返す。
このどうしようもなくこみ上げる嬉しさを胸に。
力になりたい、なんて。
大それたことは言えないけど。
でも私の存在が、少なからず神田の中の何かを変えてくれたのなら。
きっとそれ程、嬉しいことはない。
「っ…」
するとぽかんとした表情から、くっと唇を噛んで、背中に回った手が更に強く私を抱き込んだ。
「わ、何…っ」
というか、胸板に顔を押し付けられるくらい強く抱き込まれた。
な、何急に。
あんまり動くと下半身が痛いんだって…!