My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「…んなジロジロ見んな」
「ご、ごめん」
視線で気付いたのか、ぼそりと呟かれて慌てて目を逸らす。
咄嗟に謝れば、神田の手が不意に私の手首を掴んだ。
「別に怒っちゃいない。お前はこれがなんなのか知ってんだろ、調べたんなら」
「…あ」
「こんなもん、ただの刺青みたいなもんだ」
そのまま引っ張られて、ぺたりと呪符の上に手を重ねられる。
…確かに神田の言う通り。
触っても特別体温が違ったり、何か変化がある訳じゃない。刺青のように肌に刻まれているだけ。
…それだけじゃないことは、わかってるんだけど。
「…でも、前より…濃く、なってない…?これ」
アレンと初めて組んだ、南イタリアでの任務。
其処でAKUMAの攻撃によって大きく負傷した神田は、現地の病院に一時入院した。
その時に垣間見せていたこの呪符は、肩まで及んでいないもっと小さなものだったはず。
…こんなに禍々しく、大きな模様は成していなかった。
「俺の中にある"命"を消費すれば、それに比例してでかくなる。…多分そんなもんだろ」
「多分って」
「詳しくなんて知らねぇよ。呪符の構造なんて興味ない」
それは神田らしい応えだったけど。
それならあの南イタリアの任務から、これだけ呪符が変化するくらい…神田は自分の"命"を消費してきたんだ。
…そうだよね。
方舟でノアと戦ったり、本部襲撃時にAKUMAからコムイ室長を守って盾になったり…その体を酷使してきたのは知ってる。
「……あんまり、無理しないで」
ぐっと唇を噛み締める。
「体…もっと大事にして」
いつ"終わり"がくるのか、それがわからないから怖い。
ある日突然その"命"が尽きてしまったら。
…そんなこと考えたくもない。
「神田は確かに強いけど…死んでも生き返る体を持ってるけど……でも、人間なんだから」
「………は…?」
そっと呪符の刻まれた肩に触れたまま呟けば、腑抜けた声が神田から上がった。
見れば、ぱちりとその切れ目を瞬いて驚いた顔。
…何。
私別に変なこと言ってないけど。