My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「お前、それいつもやるよな」
「え? な、何が」
後ろから抱きしめたまま、すぐ傍にある声が問いかけてくる。
「ガキみてぇに、ベッドの隅で縮まって寝てんだろ。体痛まねぇのかよ」
縮まってって……ああ。
言われて気付く。
そういえばさっきも、同じようにベッドの隅にいっちゃってた。
「癖みたいなものだから…体は痛くならないよ」
もう慣れたもの。
気付いたらしてしまっているから、仕方ない。
だってこれは──
「どうやったらそんな癖つくんだよ。そのうちベッドから落ちるぞ」
呆れた声で呟く神田に、思わず唇を噛む。
…いつもなら、そうだねって笑い返す。
今更掘り返すようなことじゃないし、別にこの癖が悪いことだなんて思ってない。
……でも、なんでだろう。
「……昔…住んでた家のベッドが…ちょっと、小さかったから」
自分の過去なんて、掘り返して話すつもりなんてなかったのに。
誰にも言うつもりなんてなかったのに。
…神田には伝えたいと思った。
自分を卑下するんじゃなくて。
私のことを、知ってもらいたいと思った。
「住んでた家も、建て付け悪くて…隙間風が多かったから、冬場は寒くて。縮まって寝る癖がついたんだと思う」
何枚も防寒として着重ねても、あの隙間風の多い空き家の中は凍るように寒かった。
頭まですっぽり布団を被って、耐えるようにして寝ていた。
小母さんの下で生きていた頃の私。
「…それは野生児みたいな食生活してた時か」
「あー…うん、まぁ」
野生児って。
結局そんなイメージついちゃったんだ。
思わず神田の言葉に苦笑いが漏れる。
「色々と貧困暮らしはしてたかな。裕福じゃなかったから」
小母さん達は、決してお金持ちだった訳じゃない。
そんな中、私から出ていくと言うまで面倒を見ていてくれたんだから…結果的には色々とお世話になった。
あり難いことだと思う。