My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
………………え?
「……今、」
なんて。
私の、名前?
「…呼べっつったのはお前だろ」
ぼそりとぶっきらぼうに呟くと、耳元に寄せられた口が、またその"名"を紡ぐ。
「雪」
「ッ──!」
耳に流し込まれる声に体が熱くなる。
たった数文字。
自分の名前を呼ばれることが、こんなに衝撃的だったなんて。
というか、このタイミングでそんなふうに呼ばないでよ…!
「ッ…おま…締め付けんな…っ」
「え? あ…っな、に」
不意打ちの出来事に思わず胸が締め付けられていると。
…同時に私の体も、反応していたらしい。
私の顔の横で項垂れるようにして、ぷるぷると神田の体が震える。
え、何。
そんな大層な衝撃だったの、今。
「人が必死で我慢してるってのに…ッ」
「な…ッ先に照れること言ってきたのは神田だから…っ」
「…じゃあもう呼ばねぇぞ…」
「えっ」
そ、それは嫌っ
「やだ…っ…呼んで、欲しい」
初めて聞いた、名称としてじゃなく私を求めて呼んでくれた私の"名"。
一度きりでいいなんて思わない。
もっと呼んでほしい。
「……なら耐えろよ」
え?
「こんなギチギチに締め付けられて、我慢できるかよ」
「んッく…!」
私の中の大きな異物が、強い存在感を放ちながら動きを見せる。
乱暴な動作じゃないけど、それでも充分私には大きな刺激だった。
「は…ぁっ…雪…っ」
痛い。
痛い、けど。
知らなかった、欲を含んだ神田の声が私を呼ぶ。
それだけで胸を鷲掴みにされるような、そんな気分だった。
痛いのに気持ちいい。
心で感じる幸福。
「神、田…っ、んぁ…ッ…」
応えるように呼べば、大きな腕が強く抱きしめてくる。
気遣う様子のないその力は、それだけ私を求めてくれている証で。
一つになって感じる痛みと同じ。
痛いのに、心地良いものだった。
どうしよう。
これ、凄く気持ちいい。