My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「どんだけ…ぃ、痛い…」
「……痛いなら動くなよ」
覆い被さったまま、はーっと顔の横で神田が深く息をつく。
体は動かさないまま、その手だけがあやすように頭に触れ──…わ。
頭…こんなふうに優しく撫でられたの、初めてかもしれない…。
「落ち着くまで、じっとしてろ」
……優しい。
凄く大事に抱いてくれてるのが、わかる。
それがわかるから胸はきゅんとして、痛み以上の何かが私を包み込んだ。
痛いのは痛い。
でも、これは神田と繋がることができた証だから。
そう思うと、体の痛みなんて関係なく心は満たされた。
「……」
「?……おい?」
無言で目の前の体を抱きしめる腕に、力を込める。
愛しさのようなものが溢れて、僅かな動作も膣内は痛みが走ったけど、それでも。
目の前のこの存在を抱きしめずにはいられなかった。
「月城?」
ああ、その声。
その名前を呼ばれる声でさえも、胸にじんとくる。
「…もう一回」
「は?」
「…名前。呼んで」
神田に低く掠れた声で呼ばれただけで、体はぞくぞくと反応していた。
神田が私の名前を呼ぶ。
それはきっと、私には魔法のようなものだ。
…地下の実験室で感じていた呪文とは違う。
私に安心と温かみをくれる、神田だけが生み出せる魔法の言葉。
「神田に名前、呼ばれるの…好きだから」
普段もあんまり呼ばない神田だから、素直に甘えられる今だからこそ頼み込む。
「……」
すると目の前の体は、微動だにしないまま黙り込んだ。
あまりにその沈黙が長いから、意地悪かと思わず押し付けていた顔を上げる。
「──雪」
ぽつりと。
暗闇の中で神田が口にしたのは、確かに私の"名"だった。