My important place【D.Gray-man】
第32章 幾恋心
「それに楽しそうなリナリー達を見ながら、こうしてクロウリーと話するの楽しいし」
「…私と、であるか?」
「うん」
人が楽しそうにしている光景を見るのは、嫌いじゃない。
神田とニューヨークの年越しイベントに参加した時と同じ。
そういう幸せそうな姿を見てると、こっちまで幸せな気分を貰える気がするから。
……同時に、羨ましさもあったけど。
その楽しそうな輪の中にはいつも入れなかったから、外から見て同じ楽しさを味わう。
それは小母さんの下で生きていた私が自然と身に付けた、一人遊びみたいなものだった。
「あんまりこうしてゆっくり話したことなかったもんね」
リナリー達の輪には入らずに少し離れた場所から見守るクロウリーの姿が、なんだかそんな昔の自分と重なってしまって。
気付いたらその隣に足を向けていた。
「…そうであるな」
笑顔で高い背を見上げれば、ふっとクロウリーの口元に柔らかい笑みが浮かぶ。
神田より更に長身だけど、威圧なんて全く感じないのはその性格の賜物だと思う。
…吸血すると豹変するけど。
「でもクロウリーこそ、なんであそこに入っていかないの?」
アレン達とは仲良しだよね、確か。
「私も女性物を見立てるのは苦手であるから。…花くらいしか贈ったことがない」
「そうなんだ」
花ねー……確かに紳士なクロウリーには似合うかな。
「でも女性に花を贈るなんて素敵だね。その女性って──」
言いかけてはっとする。
私はその場にいなかったからアレン達から話でしか聞かなかったけれど。
確かクロウリーが愛した女性は──
「……彼女は、赤い薔薇が好きだった」
私の表情にそれが出ていたのか否か、わからないけれど。言葉を止めた私に、クロウリーは儚い笑みを僅かに浮かべてそう言った。