第32章 幾恋心

「それで、リナリーが気になってるお店ってなんですか？」

「あ…うん。えっと──…」


「いやー、春だね」


　昼食を終えて、皆で教団の外に向かう。
　広い廊下を歩くアレンとリナリーを後ろから見守りながら、うんうんと頷く雪は爽やかな程にイイ笑顔。
　多分この様子じゃ、リナリーの想いを知ってんだろうな。

　……にしても、


「雪それ、なんかオバサンっぽいさ」

「そこ、煩い」


　隣でツッコめば、即座に笑顔で返される。

　雪への自分の想いを知ったからって、今まで接してきた態度をそう変えたりなんてできるはずもなかった。
　それにこうして砕けて話せる方が、オレも雪も気が楽で丁度いい。

　…この間に流れる空気は、オレだからできること。
　そんなオレだから息ができたって、雪も言ってくれた。
　だから変える気もない。

　ユウのどこが雪を惹き付けたのか、わかんねぇけど…それを真似る気はないし、そんなことして手に入る心なんてオレが欲しいもんじゃない。

　だからオレはオレのまま、変わらず雪の隣にいようと思う。


「…なぁ、雪」

「何。オバサン発言は受け付けませんよ」


　…けど、まぁ。


「……」

「…何？」


　改めてきちんと雪を見る。
　緩くアップにされた髪に控えめに飾られた小さなそのリボンに、ちょんと指先で軽く触れてみる。


「さっきは言いそびれちまったから。…その恰好、似合ってんさ」


　アレンじゃねぇから、爽やかに褒めることなんてできねぇけど。
　この言葉はオレの本物の気持ちだから。


「可愛い」


　笑って言えば、見上げていた目が丸くなる。


「……」


　まじまじとオレを見上げながら口を開いて──


「…褒めても何も出ないけど」


　……ちょい待ち。

　なんさその反応。
　クロちゃんの時は女らしく反応してただろ。

　なんでオレの時だけそんな反応っ？