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My important place【D.Gray-man】

第31章 嘘と誠



 …楽に、なったはずなんだけど。


「お前は俺の体を心配する前に、自分の体をもっと大事にしろ」

「え?」

「怪我を軽く見過ぎなんだよ。だから完治に時間かかってんだろ」


 呆れ顔の神田の指先が、ゆっくりと伸びて私の額の絆創膏に触れる。
 呆れてはいるものの、その動作はまるで怖がらせないように気遣うようだった。

 …あの自室に強制連行された時と同じだ。
 きっと、心配してくれてる。

 そういう優しさに触れると、胸がツキリと痛む。

 神田の傍にいたいから…この打開策を考えたはずなのに。
 騙してその優しさに浸かっているようで、心は痛む。


 こうして、欲しかったものを手に入れてしまうと。

 怖さは増した。
 失いたくないって気持ちが、更に強くなった。

 それと同時に、私を受け入れてくれたことが嬉しくて。

 認めてもらいたいと思った。
 この不安を抱えた今の自分ごと。

 云いたい。
 云えない。

 両極端な思いは、私の胸を苦しくする。
 楽になったはずなのに、別の意味で苦しさは増した。


「…神田はさ……嘘って嫌い?」

「は?」


 膝を抱いて座り込んだまま、自分の足先を見ながら問う。
 故意的に嘘をついてる訳じゃないけど…黙っていれば結果的に、それは嘘をついているのと変わりない。


「なんだ急に」

「…私が神田に嘘ついたらさ、怒る?」

「なんだよ嘘って」

「……実はこう見えてエクソシストなんです。とか」


 視線を隣に向けて雑な事例を上げてみれば、神田は忽ち呆れ顔をした。


「こんな貧弱なエクソシストは、早々いねぇな」

「…ご尤もで」


 仰る通りです。


「大体そんなもん、内容によるだろ。そんな嘘で嫌う理由になるか」

「……ご尤もで」


 確かに。
 黙ってたことを怒られはするかもしれないけど。
 でもノアは怒るとか嫌うとか以前の話。

 私を敵として見るか否か。

 …そんなこと、到底聞けやしない。


「私も…とりあえず、ちゃんと話を聞くと思う」


 それはまるで言い訳だと思った。


「嘘の中に意味があるなら、ちゃんと」


 自分をそうやって受け入れてもらいたいが為の、無様な言い訳だ。

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