My important place【D.Gray-man】
第31章 嘘と誠
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「い、痛い痛い! ギブギブ!」
「根を上げんのが早過ぎだろ」
「締まってる! 首締まってるから…!」
朝食を済ませていつものように修練場に向かえば、いつものように神田相手に何度も組み手で負かされた。
本当、容赦ないっていうかスパルタっていうか。
後ろから首に回された腕を、バシバシ叩けばやっと解放される。
「はぁ…疲れた…」
「お前は根本的な体力をもっと付けろ」
「…神田があり過ぎなんだって…」
これでも割と鍛えてるんだからね。
神田相手だと、どうにも自分が貧弱に見えてくる。
休憩とばかりに修練場の大きな柱に寄りかかって座り込めば、隣にすんなりと神田も腰を落ち着かせた。
今度ブックマンにこそっと体術の稽古付けてもらおうかな…神田相手に互角にやり合ってたし。
「神田も飲む?」
「ああ」
「はい。どうぞ」
持ってきていたお茶をコップに注いで渡しながら、掻いた汗をタオルで拭う。
すると隣から視線を感じた。
…何?
「…お前、まだそこ治んねぇのか」
ドキリとした。
神田の何もかも見透かすような黒い目は、真っ直ぐに私の額の絆創膏に向いている。
何気なく発した言葉なんだろうけど、いつそれを聞かれるのか。
ここ最近はずっと身構えてたから。
「…ちょっと、跡になっちゃってて…まだ綺麗に治ってないというか…」
「掠り傷だって言ってなかったか、お前」
「…まぁ…気持ち、掠り傷というか…」
「なんだそれ」
呆れた顔をする神田に、苦笑混じりに返す。
…もうノアのことは、誰にも言わないって決めたから。
覚醒するならするで、隠し通すって決めたから。
心構えはしたから、後はその時を待つだけ。
でも誰かの前で覚醒してしまうのは避けたいから、一人の時に予兆がきたら迎え入れようと思っていた。
ローマでアレンの退魔の剣に触れて予兆の波がきた時は、抑えようとすれば抑えられた。
だから大丈夫。
タイミングをきちんと見計らっていれば、きっとバレずにいられる。
前はいつタイムリミットがくるかとビクビクしてたけど、こうして諦めて構えると少しだけ気が楽になる自分がいた。